森のハーモニカ|創作秘話|そういう時もある 忍者ブログ

森のハーモニカ

 去年書いた童話作品晒します↑▽↑

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森のハーモニカ

 ある森の、とあるほら穴に、かわいいウサギの親子が住んでいました。ウサギのお母さんは、子どもウサギにねる前のおはなしを聞かせています。
「お母さん、きょうのおはなしはなあに?」
 子どもウサギはききました。
「川をわたった王子様のはなしも、空をとべない妖精さんのはなしも、もうしてしまったからね」
 と、お母さん。子どもウサギはおはなしが大好きだったので、お母さんはたくさんはなしました。たくさんはなしきってしまったので、もうほかのおはなしをしりませんでした。
「きょうは、悪い魔法使いのおはなし?それとも、履くとたちまち踊りだしてしまうお靴のおはなし?」
 子どもウサギは、うれしそうに目をかがやかせています。
「そうだねえ、わかった。きょうは、ちょっといつもと違うおはなしにしよう」
「いつもとちがう?」
「そうだよ、きょうのおはなしは、魔法や妖精じゃなくて、ウサギのお話」
 魔法や妖精のおはなしを期待していた子どもウサギは、ちょっとしかめっつらをしましたが、お母さんの言葉に長いみみをかたむけました。
「これは、むかしむかしのことだよ――」

 あるふかい森のなかに、一匹のウサギがいました。ウサギといえば、長くてりっぱなみみ。しかし、そのウサギのみみは、みじかくて、おまけに黒いあざがありました。このウサギはいつもみみのせいで、森の住人にからかわれていました。
「みじかいみみ!黒いみみ!!」
「おまえなんか、こっちにくるな!」
 からかわれている、このウサギは「ミサ」という女の子。ミサのみみは、がっこうの男の子や、友達のお母さんにまでうわさをされていました。
「わたしのみみは、なんでみじかいの?なんであざがあるの?」
 ミサはからかわれるたびに、かなしくてかなしくていつも泣いていました。彼女は何かを思うときはいつも、みじかいみみがピクピクっと動きます。これは、彼女のくせでした。とても悩んでいたけれど、迷惑をかけたくなくてお母さんに相談することができませんでした。でもお母さんは、ミサが笑顔でいてもみみが動くくせですぐに分かってしまいます。しかし、いつまでも手を貸せずにいました。

 そんなある日、ミサはぼうしをかぶって森に出ました。すこしおさんぽをすると、きりかぶの上に立ったタヌキの男の子をみました。その男の子のまわりには、たくさんの動物たちが集まっています。ミサは、ここしばらくはお外に出れずにいたので、知らないあいだに新しいなかまがふえたのだと思いました。
「ポコちゃん、きょうもいろいろはなしてよ!」
「きみはとてもものしりだよね!」
「ぼくもポコくんみたいになりたいなー」
 タヌキの男の子のまわりのみんなが口々にいいました。どうやらこの男の子の名前は「ポコ」というそうです。この子がいったい、なんでこんなにも人気者なのか、ミサは興味をもちました。はずかしくて前にはでれないので、木のかげにかくれてポコのうごきをみることにしました。
「まあまあまあまあ、みんなあせらないでよ。ぼくは今日もあたらしいものを発見したんだよ!」
 まわりの言葉をかきわけて、ポコが初めてしゃべりました。すると、みんながざわつきはじめていっせいにポコに注目しました。
「あたらしいもの?いったい、なにかしら?」
 ミサもどんどん、気になってきました。
「じゃーん!これ!みんな、しってるかい?」
 おおげさにポコが取り出したものは、どこからどうみてもえんぴつ。しかし、森のなかではえんぴつはとてもめずらしいもの。ミサは勉強熱心なので人間の道具はよくしっていましたが、ふつうはこんなもの知ってる動物なんていません。
「ポコさんは、もしかして人間の道具にくわしいから人気者なのかしら?」
 ポコの表情をみると、どこからともなくみなぎる自信。みんなの信頼と尊敬のまなざしがそそがれるところからみても、きっと彼はすごくものしりなんだと思いました。
「ポコちゃん、それ、なあに?」
「それはどうやって使うものなの?」
 みんなは口々に質問をしました。
「これ?これはね、ほらっこうやって……」
 そう言うと、ポコはしゃがんで何かをしはじめました。ミサは木のかげにいたので、よく見えませんでした。
「な、何をしているのかしら……?」
 どうやって使っているのかが見たくて、ミサはおもいきってそっと動物たちの中にまざりました。がんばって首をのばして見てみると、
「……?」
 ミサはあぜんとしました。ポコは、なんとえんぴつを地面につきさしていたのです。
「こうやってね!地面をほるためのどうぐなんだよ!!」
 ポコは自信満々にそういうと、細いえんぴつで地面をほっています。ミサはちゃんと、えんぴつは紙に文字を書くための道具だと知っていました。しかし、なにもしらないほかの動物たちは、ポコのいうことをうのみにしてよろこびの声をあげています。
「……。」
 この男の子は、こうやっていつもみんなをだましているの?うそつきなのに、人気者なの?わたしは本当のことも、もっとほかのことも知っているのに……ミサはみみをピクピクとさせながら、だらんと垂らしておうちにかえりました。

 あくる日、ミサはポコに会いに行こうとお外にでました。やっぱり、みみをかくすためにぼうしはかぶっていきました。どこにいるかは分からないので、昨日と同じ場所にいってみました。しかし、そこにはポコが立っていたきりかぶがあるだけ。
「やっぱり、おなじところにはいないわね……」
 さあ、これからどう探そうかとミサはなやみました。どうしたらいいか分からなくて、とりあえずきりかぶに座ってみました。
「なんでわたしは、こんななんだろう……」
 ポコの人気者っぷりをおもうと、ミサはかなしくなりました。いっそう自分に自信がもてなくなるようでした。しばらく座っていて、ここにいてもしかたないと立ち上がると、へたくそなハーモニカをふく音が聞こえてきました。
「だれかいるのかしら?」
 ミサはそうおもってふりかえると、ハーモニカをふくポコの姿がありました。
「あれ?もしかして、きみ、昨日ここにきてくれたでしょ?」
「えっ」
 ミサはおどろきました。まさかポコが、自分がいたことに気付いていたうえに、おぼえているだなんて!
「初めてみた子だったから、よくおぼえているよ」
「……!?……あなたって、ハーモニカすごくへたくそなのね」
 ミサはおどろいて、ついこんなことを口走ってしまいました。本当はこんなことを言おうとおもっていたわけではないのに、ミサは自分で自分がしんじられませんでした。
「えっ!?そうだった!?僕、けっこう上手いかなって思ってたのになぁ」
 ポコはすこしおちこんだようにみえました。ミサは、なんてことを言ってしまったのだろう、と自分をせめました。
「でも、まだまだ成長できるってことだから、よかったよ」
 ポコの意外な返事に、ミサはさらにおどろきました。
「ところで、きのうきいていてくれたんだよね。どうだった?」
「えっ……」
 ポコはおちこんだはずなのに、すぐに立ち直って、わたしにはなしかけてきたなんて!なんてすごいのだろう、わたしには、まねできないわ……ミサはつよく感じました。
「そうね……あの、えんぴつは、ああやってつかうものではないのよ?」
「えんぴつ?」
「そう、昨日あなたがもっていたものは、えんぴつという人間の道具よ。文字を書くときに使うものなの」
「へえ!そうだったのか!……じゃあ、ぼくはみんなにうそを言ってしまっていたのかも……きみって、すごくものしりなんだね!」
 あれ……と、ミサは思いました。ポコは、みんなにわざとうそをついていたのだと思っていたけれど、いまのポコのいいかただと、どうやらうそをついていたわけではなさそう。
「わ、わたしは、いつもお外にはでないでお勉強だけしてるから、しっているのよ」
「そうなの?ともだちは?ともだちと、あそばないの?」
「ともだちなんて……」
 ミサのみみが、ピクピクとうごきました。
「ぼくが、ともだちになろうか?」
「えっ……?」
 ミサはいっしゅん、身体が動きませんでした。
「だれともあそばないなんて、楽しくないよ。ぼくとあそぼうよ」
 ミサは、なんともいえなくうれしかったのです。いままでからかわれてばっかりで、こんなともだちなんて、できたことが無かったのですから。
「きみの名前は、なんていうの?ぼくはポコだよ、よろしくね」
「わたしはミサっていうの。わたし……はじめてともだちができたわ!」
 その日から、ミサはポコと毎日あそびました。しかし、みみをかくすためのぼうしはかぶったまま。そしてミサはいつも思っていました。ポコは、わたしにはないものをたくさんもっている。とても仲良くなったころに、ミサはずっと思っていたことをポコにきいてみました。
「ねえ、わたしがあなたに初めて会った日のこと覚えてる?」
「うん。ぼくがえんぴつの使いかたをまちがっていた時?」
「そうよ。それ、なんであなたは、いつも自信にあふれているの?」
 ミサがききたかったことは、これでした。彼女にはいつも自信がない。自分のみみにも、自分の知識にも。いつも堂々としているポコには、少しあこがれがありました。
「うーん、そうだなあ。ぼくはいつも自信満々で、それだからかんちがいしてる、ってこともあるだろう?」
「ええ、そうね。えんぴつの時もそうだったわ」
「でも、かんちがいっていいんだよ。もちろん、えんぴつの使いかたがまちがってるのはダメだけど、自分はハーモニカが上手だとか、おおきな川をとびこえられるとか、かんちがいしてでも自信をもってることが、ちからになるんだ」
 ミサのみみがうごきました。彼女は、自分には自信がないことが頭からはなれませんでした。
「ぼくだって、なんでもできるようなタヌキじゃないけど、できるんだ!って思っていたほうが、楽しいし、時にはそれが本当になるから――」
 言い終わったころには、ミサは泣いていました。
「ミサ、どうしたの!?」
「わたし……こんなにも自信がもてなかった自分が、はずかしいわ……」
「ミサ……」
 少しすると、ミサはおもむろにぼうしに手をかけました。
「ポコ、わたしずっと自分に自信がもてなくて、かくしていたの」
 ミサは初めて、ポコの前で自分のみみを見せました。
「……。」
 ポコは、おどろいて声がでません。ミサは、心の中でポコにもからかわれるかも、とおそれていました。
「個性的なんだね!」
「!!」
 ポコはいきなりしゃべりました。
「みんなと同じながいみみのほうがいいの?同じでいいの?ちがうほうが、いいよ」
 ミサはおどろきつつも、とても幸せでした。ポコにからかわれなかったことも、みじかいみみにあたらしい考え方ができたことも。
「そういうところまでみんな、ミサのいいところなんだよ」
「ポコ、ありがとう!!わたし、わたし……!!」
「もちろんすぐに変われなくてもいいから、これからはもっと友達をふやそうよ!」

 その後、もちろんすぐにとはいきませんでしたが、ミサにはともだちがふえて、からかわれることもなくなり、得意のものしりを生かしてみんなと仲良くなりました。ポコも、ずっと信じつづけていたせいなのか、ハーモニカがとてもうまくなりました。
 めでたし、めでたし……

 お母さんウサギは、やさしい顔で子どもウサギをみつめました。
「ミサは、自信がもてるようになったのね!よかったわ」
 と、子どもウサギは言いました。続いて、
「そういえば、お母さんはとても自信家よね!お母さんが小さいころは、きっとミサみたいな子どもではなかったのでしょうね。どっちかといえばポコだわ!」
「うふふ、そうかしらね。さあ、もうおやすみなさい」
「おやすみなさい、お母さん」
 子どもウサギが寝たのを確認すると、お母さんはみみをピクピクっとうごかしながら部屋をでていきました。居間からは、ハーモニカの音色がきこえます。

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